字幕翻訳者から見た映画『パドマーワト』の格調ある字幕〈試写会レポート〉

『パドマーワト』2019年6月7日(金)公開

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資料によると、これは16世紀インド古来の伝記(恋愛詩)を33億円の制作費を掛けて、映像化した話題作です。内容はインドの昔の風習、集団焼身自殺(ジョウハル)という妻の貞淑を表わす尊厳死をテーマとしたものにもかかわらず、作品の中に王妃とイスラム君主の恋愛を描いた夢の場面が出てくるとのうわさが流れ、映画の上映を前にインドで起きてる集団自殺と集団殺人の脅迫,暴動や主演女優のディーピカー・パードゥコーンへの暗殺予告など、現地での公開も一時、危ぶまれたのです。米国公開当時も、ニューヨーク・タイムズは関連報道を載せたほどの騒ぎでした。故に、日本での公開も配給会社の一つの願いかと感じ、よく公開まで踏ん張ったと心から拍手を送りたいと思います。

伝記を映像化したこの作品ならではのこだわりはビジュアルはもちろん、俳優の人選もこだわり抜いたものだと言えるでしょう。そして、残った最後のこだわりは、それに見合う字幕です。字幕翻訳者は読解力を問われる作家であるうえ、作品に合わせて作風を変える力量も求められるのです。この重量級の作品を引き受けた福永詩乃さんもさぞ重圧を感じたに違いありません。

この作品では、王族の言葉を品良く見せる言葉選びはもちろん、特に印象的なのはルビを“ジョーハル”にして、漢字を“尊厳殉死”にしたところです。

一般的にジョウハルは“尊厳死”や“焼身自殺”で書かれますが、パドマーワティが決意を表わす大事なシーンということもあり、言葉選びは一層デリケートなものになります。実際、尊厳死だとよく連想されるのは末期ガン患者に与える医療の選択となりますし、焼身自殺の場合は少しグロテスクなイメージが浮かぶのです。それに引き替え、漢字を“尊厳殉死”に発想転換したことで、一瞬にして神聖な儀式に変えられたのだから不思議です。文字が持つ力や印象操作は実にすごいですよ。

作品には必ず名訳を作れる場面があって、字幕翻訳者はそれを見極めて、ここぞと力を入れるのが翻訳の醍醐味です。パドマーワティの口から語る“ジョウハル”という言葉の重みを分かりやすく、印象的なものにしようとするのは、翻訳者さんが読み取った作品のキーワードじゃないかと感じました。お見事です。

「尊厳殉死(ジョーハル)の権利を」

「殿下の許しなしに 私は死ねません」

文:蘇 雅如

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